山の夜の闇は心を裸にして、心が敏感になっていく感じがします。そのとき人は怖くなったり、不安が押し寄せたり。山の夜は景色の色彩を消し去りながら、この三日月のように隠していた素の心を浮き上がらせてくれます。
素の自分と向き合いながら寝袋に包まれ、冷気に耐えながら細々眠る。その時間が一番、僕にとっては自然に寄り添っている時間なのかもしれません。冷気の中に万物を創造した霊気を確かに感じるのです。そして、むきだしの未熟な心を、この星はすべてを許容しながら抱いてくれているような感じがするのです。
この夜空に広がる星の数ほどのザワついた情念たちが消えさってしまう不思議さが夜の山には存在しています。風の音しかしない静寂の闇の世界は、人類にとって不可欠なものだと断定したくなる衝動にかられてしまうほどの神秘的体験です。
そんな体験をした翌日、ムクッと起きてそそくさと衣食住をザックに詰め込んで、息を荒らしながら黙々と山の頂へ。東の空がほんのりとピンク色に染まっているあたりからが、陣痛のはじまり。昨日の闇の効果で心は無の状態をキープ。そして、雲の切れ間から、天照大神が顔をだした時、おぎゃ〜! 人は肯定的でポジティブな自分に不思議なくらい急速に生まれ変わっていきます。
山の夜は母の胎内
夜の山道は産道
山のご来光は生まれ変わりの瞬間
サンライズトレッキングは、日ごろ里でこびりついてしまったドロドロの常識をはぎ取るための生まれ変わりの儀式なのかもしれません。