ツタ
美しく紅葉するつたの葉。ぶどう科で夏蔦とも呼ばれ、冬蔦とも呼ばれ常緑で、ウコギ科の「キヅタ」とは別種になります。
夏蔦は、鮮やかな紅葉が歌に詠まれることも多く、「紅葉蔦(モミジヅタ)」「錦蔦(ニシキヅタ)」「蔦紅葉(ツタモミジ)」などの別名もあります。
ブドウのような実をつけますが、舌が痺れるような感覚になることもあるらしく食用には向かないようです。
しかし、ツタの茎の樹液からは、幻の甘味料ともされる「甘葛煎(アマヅラセン)」が作られます。
あまづらは、平安時代までは高貴な甘味料として、文献史料にもしばしば出てきますが、砂糖が普及するにつれて次第に忘れ去られ、何からどのように作られたのか、どんな味なのかもわからなくなってしまいました。しかし二十数年前、北九州市で漢方薬店を営む石橋顕氏が、長年の研究の結果ついに復元に成功し、詳細な報告書※を刊行されました。
※石橋顕著『幻の甘味料 甘葛煎研究(報告その1)』小倉薬草研究会あまずら調査部会発行 1988年11月(非売品)
ツタの樹液は、落葉した後、寒くなるにつれて糖度を増していきます。一番寒い時期、1月から2月の初めくらいが糖度のピークだそうです。
奈良女子大学の実験では、12月の初旬に糖度5.6、12月下旬に糖度10.4、1月は糖度20。糖度10を越えれば、果物なみの甘さとのこと。
*ただし、ツタの切り口を直接舐めたり、吸い込んだりしてはいけません!
表皮の成分が口に入ると、口の粘膜を傷める恐れがあります。試しに舐めてみる時にも、必ず息を吹いて出てきた透明な液体「みせん」だけを、指などにつけて口に入れてください。
「みせん」を煮詰め糖度を高めたものが、「甘葛煎(アマヅラセン)」
幻の味は、砂糖とも違い、ハチミツやメープルシロップとも違い、さらりと甘く、後味すっきり雑味なし。なんだそうです。
清少納言の『枕草子』(西暦1000年頃に成立)にも、
「削り氷(けづりひ)に『あまづら』入れて、新しき金鋺(かなまり)に入れたる」という一文が出てきます。
かき氷に甘葛煎を入れて食べた(?)ようです。
いつか幻の味、味わってみたいですね!
ツタ/蔦
学名:Parthenocissus tricuspidata
ブドウ科ツル属の蔓性の落葉性木本
分布 北海道、本州、四国、九州