花山歩道を登り詰めて最後の尾根までたどりつくと、鹿の沢小屋まで急峻な下りになります。この区間はなぜか雪が吹き溜まることが多く、雪質がさらさらでワカンをはいていてもズボズボと足が埋まってしまいます。下りは楽しいのですが、上りはいくら足を前に出しても進まないしんどいエリアです。北面に向く谷地形で日が当たらず、このエリアだけは雪が溶けにくいからなのでしょうか。山歩きは、いつもたくさんの疑問が湧いてきます。
そんな環境に、この杉は生きています。強風が吹き抜ける尾根付近なので、背丈は極端に低く、幹より枝の方が長いです。陽樹である杉としては上に上にのびたいところですが、強風がそれを許さず、杉は風の抵抗を受けにくい形で枝をのばしていると思われます。そして、数本の枝は下にたわんでいるのがわかると思います。よく雪が吹き溜まるエリアなので、雪の重みがそうさせたのか、枝自身の重みがそうさせたのか。はたまた、風が押し付けたのか。
首をなくしたシシガミさまが首を求めてデイタラボッチになったときのような姿で、おどろおどろしくもありますが、光を求めて必死で生きている強さがヒシヒシを伝わってくるたくましい木で、花山歩道を歩くときはいつも出会えることが待ち遠しく感じてしまう存在です。
しかし、この杉以上の関心ごとは、この数百年で、この枝にどれほどの雪がどれほどの時間滞在していたのか、どれほどの強風が吹きつけたのかということです。硬いヤクスギの枝をたわませた、目に見えない存在がずっと、心の中で気になっています。
この木にガッツリ雪が乗ってるシーンを写真におさめることを、もう何年も夢みていますが、今年も叶いませんでした。もしかするともうこの先見れないシーンなのかもしれません。僕がいる11年の間でも屋久島の積もる雪の量は、年々少なくなっているように思います。
そう思ったお主は、じゃあ、どうする?
もう来年は雪をかきわけてここまで来ないのかい?
可能性がある限り、ワシは枝を伸ばし続けておるぞ
今年は、この御仁とそんな対話ができました。
不屈の精神を僕にそそぎ込んでくれる無名の銘木です。